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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)119号 判決

大阪市中央区城見1丁目4番70号

原告

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社

代表者代表取締役

寺尾和明

訴訟代理人弁護士

草野耕一

神谷光弘

臼田啓之

東京都渋谷区渋谷2丁目15番1号

東邦生命ビル

被告

日本デジタル放送サービス株式会社

代表者代表取締役

三田宏也

訴訟代理人弁護士

田中成志

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

特許庁が平成9年審判第8723号事件について平成10年3月3日にした審決中、登録第3050845号商標の指定役務中「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」についての登録を無効とするとの部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、「PPV」の欧文字を左横書きにしてなり、指定役務を商品及び役務の区分第38類の「電子計算機端末による通信、電話による通信、ファクシミリによる通信、テレビジョン放送、有線テレビジョン放送、電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」とする商標登録第3050845号商標(平成4年9月30日商標登録出願、平成7年6月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成9年5月23日、被告から、上記商標登録の無効の審判を請求され、平成9年審判第8723号事件として審理され、平成10年3月3日に「登録第3050845号商標の指定役務中「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」についての登録を無効とする。」との審決を受け、平成10年3月25日にその謄本の送達を受けた。

2  審決の理由

審決の理由は、別添審決書「理由」の写しのとおりである。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由中、Ⅰ(請求の趣旨及びその理由)、Ⅱ(被請求人の答弁及びその理由)は認め、Ⅲ(当審の判断)は争う。

本件商標は、「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」に使用する場合であっても、一般の需要者において、「役務の提供に対する対価の徴収方法」を表示したものであると把握、認識しておらず、本件商標は、当該役務について自他役務の識別標識としての機能を果たしているものであるから、本件商標の登録は、その指定役務中の「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」について、商標法3条1項3号に違反してされたものであるとの審決の判断は、誤っている。

すなわち、「PPV」は、「pay(ペイ)」、「per(パー)」、「view(ビュー)」の組合せから造られた用語である「pay per view」のそれぞれの頭文字をとって造られた語であるが、上記「pay」、「per」、「view」の各語は、自他役務識別力が弱いために、一体として認識されるのが自然であり、したがって、本件商標は、「PPV」という一体不可分のものであって、「ペイパービュー」の称呼のみを生じ、何らの観念も生じない。

また、「pay per view」は、情報通信分野におけるいわゆるテクニカルタームの一つであって、その分野の専門外の者が直ちにその意味を理解することができるというものではない。

更に、放送事業の専門家間の研究会に用いられた乙第5号証(昭和63年2月衛星有線放送研究会作成の「衛星有料放送の実現に向けて」と題する書面)においては、「ペイ・パー・ビュー」という用語について、わざわざ用語集等によってかなり詳細な定義づけをして用いており、また、乙第8号証、乙第12号証、乙第16号証(平成2年2月7日、同年7月4日、平成3年2月27日各発行の雑誌「日経エンターテインメント」)においても、「PPV」について、わざわざ「視聴する度に料金を支払う方式」、「視聴毎課金制度」との注記を付しているところであって、「PPV」が、一般の需要者にとってなじみがないか、あるいは、なじみの薄い用語であることを示している。

更にまた、「情報・知識イミダス」、「現代用語の基礎知識」といった用語集等は、いかに多くの情報量が記載されているかがその商品価値を決するものであるから、「PPV」が、これらの用例集に記載されているからといって、通常の一般人が、常識として、当該用語の意味を知っていたり、知りうることにはならないのであり、その他日刊工業新聞、日経ビジネスに「PPV」との用語の記載があったとしても、これらの新聞や雑誌は、一般の需要者が通常購読していないような専門新聞であったり、特定の読者層を対象にした専門雑誌であるから、「PPV」が、これらの新聞、雑誌に記載されているからといって、一般の需要者が当該用語の意味を把握、認識しているとはいえない。

以上のような事実によれば、「PPV」は、有料テレビジョン放送の課金方式として、ごく一部の人の間で使用されていたにすぎず、本件商標は、少なくとも、本件商標の登録定時である平成7年1月27日当時において、「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」の一般の需要者にとって、一見して有料テレビ放送を視聴した分だけ料金を支払うということを意味する「pay per view」とは連想されていなかったものであり、有料テレビジョシにおける従量制の課金方式を意味する単なる記述的記載とはいえないものであって、「役務の提供に対する対価の徴収方法」を表示したものであると把握、認識されていたとはいえない。

したがって、本件商標は、当該役務について自他役務の識別標識としての機能を果たしているものであって、商標法3条1項3号に違反してされたとの審決の判断は、誤っており、取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1及び2は認め、同3は争う。審決の認定判断は正当であり、審決には原告主張の違法はない。

2  被告の主張

本件商標を構成する「PPV」は、本件商標の登録査定時である平成7年1月27日当時において、少なくとも、その指定役務である「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」については、単なる記述的表示にすぎず、自他役務識別力がないのであって、本件商標の登録が、その指定役務中の「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」について、商標法3条1項3号に違反してされたものであるとの審決の判断は、正当である。

すなわち、本件商標を構成する「PPV」は、放送有料化の時代とともに生まれた用語であって、「視聴番組の本数や時間によって料金を決める有料テレビ方式・ビデオソフト発売前の新作映画を有料で有線テレビを通して発信する方式」(乙第3号証)という、テレビサービスにおける有料の形態、つまり、1度見る(ビューview)たびに(パーper)料金を支払う(ペイpay)ということを意味する用語である。

原告は、「PPV」は、有料テレビジョン放送の課金方式として、ごく一部の人の間で使用されていたにすぎない旨主張するが、乙第4号証(衛星放送制度研究会及び有料方式専門委員会の昭和59年2月作成の「衛星放送における有料方式の技術問題」と題する報告書)、乙第5号証、乙第6号証ないし乙第78号証(平成4年から平成8年6月までの種々の新聞記事等)に示されるように、多くの人々に使用され、近鉄ケーブルネットワークのケーブルテレビの視聴者だけをとっても、乙第71号証の1ないし4(平成5年12月1日、平成6年1月1日、同年2月1日、同年3月1日近鉄ケーブルネットワーク株式会社各発行の「ケーブルガイド」)のとおり、多数の人々によってペイパービュー方式が有料テレビジョン放送の課金方式として使用されてきたのであって、「ペイパービュー」、ひいては「PPV」は、決してテクニカルタームにとどまるものではない。

「情報・知識イミダス」、「現代用語の基礎知識」といった用語集に掲載されるということは、少なくとも、編者が一般の人々が参照することがあると考え、かつ、一般の人々が参照した用語である。また、「PPV」は、大衆紙である朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の記事においても使用されている。このことは、「PPV」が有料テレビジョン放送における役務の提供に対する対価の徴収方法を表示するものであると、一般の人が把握、認識していることを窺わせるものである。

したがって、本件商標を構成する「PPV」は、平成7年1月27日当時において、少なくとも、その指定役務である「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」については、単なる記述的表示にすぎず、独占適応性を欠き、自他役務の識別標識としての機能を果たすものではなかったのである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由)は当事者間に争いがない。

第2  審決を取り消すべき事由について判断する。

1  まず、「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」に関する取引者の間における本件商標「PPV」の自他役務の識別機能について検討する。

(1)  証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(イ) 本件商標を構成する欧文字の「PPV」は、英語である「pay per view」の各単語の頭文字をとって造られた語であり、したがって、本件商標から、英語の「pay per view」の観念が生じることは明らかである。

ところで、「pay per view」という文字は、英単語の「ペイ(pay)」、「パー(per)」、「ビュー(view)」を組み合わせたものであって、通常の用語例に従えば、原告が指摘するとおり、「ペイ(pay)」は「支払う、見合う」等の意味を有し、「パー(per)」は「~によって、~ごとに」等の意味を有し、「ビュー(view)」は「眺めること、視界、景色、展望、風景、観察」等の意味を有するものであるから、これらを組み合せた「pay per view」は、「眺めるごとに支払う」といった意味を有するということができる。(弁論の全趣旨)

(ロ) 米国においては、我が国より早く、有線テレビジョン放送制度が著しく発展しており、昭和59年頃には2400万ないし2700万世帯がケーブルテレビジョン(以下「CATV」という。)といわれる有料テレビジョン放送に加入するに至っているところ、加入者が料金を支払う方法の1つとして、視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという方法があり、これが「pay-per-view」、あるいは、略して「PPV」という用語をもって表示されていた。(乙第4号証、乙第6号証、乙第7号証)

(ハ) 我が国においては、郵政省に設置された衛星有料放送制度に関する研究会が、昭和59年頃には、郵政省の放送事業に係る施策の一環として、通信衛星を利用した有料のテレビジョン放送の実現に向けて調査研究を進め、テレビジョン放送を有料化した場合の課金方法の有力な候補として、米国で既に実施されている視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという方法、すなわち、前記「pay-per-view」、「PPV」の方法を検討し、これを日本語の表記で「ペイ・パー・ビュー」と称し、あるいは、原語のまま「PPV」と称して使用し、報告書中でも、同様に、「ペイ・パー・ビュー」、「PPV」の文字を使用していた。(乙第4号証、乙第5号証)

(ニ) その後、我が国の業界専門雑誌である「日経エンターテインメント」、「日経ビジネス」は、遅くとも平成2年2月以降には、視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味で「ペイ・パー・ビュー」、「PPV」の用語を使用し、米国及び我が国の有料テレビジョン放送についての記事を掲載していた。(乙第8号証ないし乙第28号証)

(2)  以上によれば、本件商標を構成する「PPV」は、英語の「pay per view」の観念を生じさせるものであるところ、「pay per view」は、テレビジョン放送、有線テレビジョン放送の業界において、有料のテレビジョン放送における視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味を有するに至っているものであって、少なくとも、本件商標の登録査定時である平成7年1月27日当時、上記業界において、有料のテレビジョン放送における役務の提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章となっていたものと解するのが相当である。

(3)  原告は、本件商標は、「PPV」という一体不可分のものであって、「ペイパービュー」の称呼のみを生じ、何らの観念も生じない一種の造語よりなるものである旨主張するが、前記認定判断に照らせば、「ペイパービュー」の称呼のみを生じ、何らの観念も生じない一種の造語ということはできないから、失当というほかはない。

2  次に、「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」の一般の需要者の間における本件商標「PPV」の自他役務の識別機能について検討する。

(1)  証拠によれば、次の事実を認めることができる。

(イ) テレビジョンは、我が国において、昭和28年に放送が開始されて以来現在までに、社会の基幹的なメディアの1つとして国民生活の中に深く浸透していった。そして、昭和57年頃から、都市型CATVといわれる多チャンネル型、営利事業型のケーブルテレビジョン事業が発展していき、平成5年3月末現在では、CATV局は5万6437施設、加入世帯数が834万4000世帯となっていた。(乙第2号証の2の1、乙第4号証、乙第5号証、乙第79号証の1)

(ロ) 放送衛星による有料テレビジョン放送は、放送衛星からの放送波1波で全国をくまなくカバーできるため、広域かつ多数の受信者を対象としており、NHKが昭和62年11月、12月に行った首都30km圏における調査によると、NHKが実施している衛星放送に対する認知率は84%、衛星放送に対する関心度は49%、利用意向は27%という結果がでており、また、日本衛星放送株式会社が昭和60年11月に首都圏、静岡、山形の住民を対象に行った衛星放送における有料放送の需要調査によると、首都圏における衛星放送の利用意向は21%、有料放送の利用意向は17%、地方における衛星放送の利用意向は24ないし33%、有料放送の利用意向は17ないし23%という結果がでていた。(乙第5号証)

(ハ) 日本ヘラルド映画グループは、平成2年7月から、通信衛星を使って、「pay per view」の方式により、CATV局への自社配給洋画の配信を開始し、また、松竹は、平成3年4月から、ヘラルドと提携して、通信衛星を使って、「pay per view」の方式により、CATV局への自社配給洋画の配信を開始し、その加入者数が伸びていった。その後も、通信衛星を使って映画番組、音楽番組を有料テレビジョン放送として配信する業者が増加している。(乙第12号証、乙第16号証、乙第68号証、乙第83号証)

(2)  上記認定の事実によれば、有料テレビジョン放送制度は、CATV及び衛星放送の発展とともに、我が国の一般大衆の中に浸透していき、全国的規模で加入者が増大しているのであるから、有料テレビジョン放送は、本件商標の登録査定時である平成7年1月27日当時、「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」の一般の需要者の間において、全国的に広く関心の対象となるに至っていたものと認められる。

(3)  次に、証拠によれば、次の事実を認めることができる。

(イ) 日経産業新聞は、平成2年9月20日、平成3年12月12日、同月14日、平成4年4月24日、同年11月12日、平成5年1月12日、同年4月7日、同年7月20日、平成6年4月10日、同年6月2日、同年7月20日、同年12月1日に各発行した新聞において、視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味で「ペイ・パー・ビュー」、「PPV」の用語を使用して、有線テレビジョン放送又は放送衛星による有料テレビジョン放送に関する記事を掲載した。(乙第49号証ないし乙第55号証、乙第60号証、乙第65号証、乙第66号証、乙第69号証、乙第70号証)

(ロ) 日刊工業新聞は、平成4年5月25日、同年11月9日、同年12月15日、平成5年6月21日、平成6年5月19日、同年7月4日に各発行した新聞において、視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味で「ペイ・パー・ビュー」、「PPV」の用語を使用して、有線テレビジョン放送又は放送衛星による有料テレビジョン放送に関する記事を掲載した。(乙第61号証、乙第82号証ないし乙第86号証)

(ハ) 日本経済新聞は、平成4年11月12日、平成6年2月28日に各発行した新聞において、視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味で「ペイ・パー・ビュー」、「PPV」の用語を使用して、有線テレビジョン放送に関する記事を掲載した。(乙第46号証、乙第64号証)

(ニ) 朝日新聞は、平成3年4月3日、平成5年11月4日、平成6年3月12日に各発行した新聞において、視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味で「ペイ・パー・ビュー」の用語を使用して、有線テレビジョン放送又は放送衛星による有料テレビジョン放送に関する記事を掲載した。(乙第48号証、乙第57号証、乙第68号証)

(ホ) 読売新聞は、平成5年7月29日に発行した新聞において、視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味で「ペイ・パー・ビュー」の用語を使用して、有線テレビジョン放送に関する記事を掲載した。(乙第56号証)

(ヘ) 平成4年1月1日株式会社集英社発行の「情報・知識イミダス1992年版」は、その用語集中に、「PPV[pay-per-view]」を掲載し、「ペイパービュー.視聴番組の本数などによって一定の料金を支払う、有料テレビの一方式」と記載しており、平成7年1月1日の「情報・知識イミダス1995年版」も、「ペイパービュー[pay-per-view]」「〈1〉視聴番組の本数や時間によって料金を決める有料テレビ方式.PPVとも.〈2〉ビデオソフト発売前の新作映画を有料で有線テレビを通して送信する方式.」と解説している。(乙第2号証の1及び2の各2)

(ト) 平成7年1月1日自由国民社発行の「現代用語の基礎知識1995年版」においても、その用語集中に「PPV(pay per view)」を掲載し、「有料テレビの課金方式。ある番組を見るたびに一定の料金を支払う新しい形式のケーブルテレビ。」と解説している。(乙第79号証の1)

(チ) 遅くとも平成5年12月までには、全国ネットワークで、「スター チャンネル」、「衛星劇場」、「ロードショーチャンネル」等の有料テレビジョン放送が放映されており、そのうちの「ロードショーチャンネル」は、視聴者が見る番組ごとに料金を支払う方式であって、近鉄ケーブルネットワーク株式会社は、その発行する「ケーブルガイド」において、「ロードショーチャンネル有料(ペイ・パー・ビュー)」との記載で、視聴者が見る番組ごとに料金を支払う方式であることを表示している。(乙第71号証の1ないし4、弁論の全趣旨)

(4)  上記認定の事実によれば、「ペイパービュー」、「ペイ・パー・ビュー」、「PPV」という用語は、長期間にわたって、多数の全国紙によって使用され、用語集に定義が登載され、有料テレビジョン放送の放送案内に使用されていたものであって、これに、有料テレビジョン放送が、本件商標の登録査定時である平成7年1月27日当時、「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」の一般の需要者の間において、全国的に広く関心の対象となるに至っていたことを併せ考えると、「PPV」という用語は、平成7年1月27日当時、上記一般の需要者の間においても、有料テレビジョン放送の視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味を有するものとして、役務の提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章となっていたものと認定することができる。

(5)  原告は、「情報・知識イミダス」、「現代用語の基礎知識」といった用語集等は、いかに多くの情報量が記載されているかがその商品価値を決するものであるから、「PPV」が、これらの用例集に記載されているからといって、通常の一般人が、常識として、当該用語の意味を知っていたり、知りうることにはならないのであり、その他日刊工業新聞、日経ビジネスに「PPV」との用語の記載があったとしても、これらの新聞や雑誌は、一般の需要者が通常購読していないような専門新聞であったり、特定の読者層を対象にした専門雑誌であるから、「PPV」が、これらの新聞、雑誌に記載されているからといって、一般の需要者が当該用語の意味を把握、認識しているとはいえない旨主張するが、いずれも裏付けのない主張であって、上記認定に照らし、採用することができない。

3  以上のとおり、本件商標は、本件商標の登録査定時である平成7年1月27日当時、「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」の取引者及び一般の需要者の問において、有料テレビジョン放送の視聴者が見る番組ごとに料金を支払うという意味を有するものとして、役務の提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章となっていたのであるから、当該役務について自他役務の識別標識としての機能を果たすものとはいえず、したがって、本件商標の登録は、その指定役務中の「テレビジョン放送、有線テレビジョン放送」について、商標法3条1項3号に違反してされたものであるとの審決の判断は、正当というべきである。

第3  そうすると、審決に違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年10月15日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

理由

本件は、平成4年9月30日に登録出願され、「PPV」の欧文字を左横書きしてなり、第38類「電子計算機端末による通信、電話による通信、ファクシミリによる通信、テレビジョン放送、有線テレビジョン放送、電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」を指定役務として、平成7年6月30日に設定登録がなされた登録第3050845号商標(以下、「本件商標」という)に対し、商標法第46条の規定に基づいてなされた登録無効審判請求(以下、「本件請求」という)である。

Ι.請求の趣旨及びその理由

請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証~甲第70号証(枝番を含む。)を提出している。

本件商標は「Pay Per View(ペイパービュー)」の頭文字としての「PPV」の文字からなるところ、該「PPV」の文字は、有料テレビジョン放送、有料有線テレビジョン放送の課金方式を表示する単なる記述的な表示に過ぎないと一般需要者の間においても認識されており、かかる商標は、役務の提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるので、商標法第3条第1項第3号に該当する。

すなわち、本件商標を構成する「PPV」の文字は、放送有料化の時代と共に生まれた用語であって、「視聴番組の本数や時間によって料金を決める有料テレビ方式・ビデオソフト発売前の新作映画を有料で有線テレビを通して発信する方式」(甲第3号証)という、テレビサービスにおける有料の形態を意味する用語である。

本件商標の指定役務が含まれるテレビジョン放送や有料テレビジョン放送の業界において、本件商標を構成する「PPV」の文字は、本件商標の商標登録出願日である平成4年9月30日以前より、有料テレビジョン放送、有料有線テレビジョン放送の課金方式を表示する用語として普通に用いられてきており、少なくとも当該業界においては、本件商標の登録査定時には、誰もが使い、使う必要があり、独占適応性を欠くものと認識されていた。

本件商標を構成する「PPV」の文字が有料テレビジョン放送、有料有線テレビジョン放送の課金方式を表示する単なる記述的な表示に過ぎないと一般需要者の間においても認識されている事実を甲第6号証~甲第70号証(本件商標の登録出願時である平成4年当時から平成8年6月までの新聞記事等)により示す。

本件商標が「ペイパービュー」の略称であり、同義語で用いられている事実は、甲第8号証【甲第8号証には、「ペイ・パー・ビュー(PPV・視聴する度に料金を支払う方式)」の記載がある】等により示す。

なお、本件商標(「PPV」)は、ありふれた書体で表されいることから、商標法第3条第1項第3号にいう「普通に用いられる方法で表示する」ものである。

Π.被請求人の答弁及びその理由

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める」と答弁し、その理由を要旨次のように述べ証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出している。

1.本件商標は、その登録査定時である平成7年1月27日において、当該文字全体から直ちに「視聴番組の本数や時間によって料金を決める有料テレビ方式・ビデオソフト発売前の新作映画を有料で有線テレビを通して発信する方式」の意味合いを認識させるものとなっていたとは言い難い。

したがって、本件商標は、役務の提供の方法を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないので、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものではない。

(1)本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かの基準時について、請求人は、本件商標の登録査定時と解しているから、本件商標が役務の提供の方法を認識させるものか否かの判断時についても、本件商標の登録査定日(平成7年1月27日)においてこれを検討する。

(2)本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かの判断基準として、役務の提供の方法についての単なる記述的なものと、誰が認識する必要があるかという点について、請求人はテレビジョン放送業界の認識と一般需要者の認識の双方を検討しており、そのいずれの認識を最終的に基準として考えているのか、必ずしも明らかでない。

しかしながら、本件商標の指定役務の需要者は、有料テレビ放送の視聴者、すなわち広く一般需要者であることからすると、本件商標について、単なる記述的なものであるか否かを判断するためには、広く一般需要者が本件商標から直ちに本件役務の内容を認識できたか否かを検討すべきである。

(3)以上を前提に検討すると、本件商標を構成する「PPV」の文字は、少なくとも、その登録査定時である平成7年1月27日においては、一般需要者にとって、しかも、ある程度英語に通じている一般人にとっても、一見して「pay per view」とは連想されていなかったと考えられる。

したがって、本件商標は、有料テレビジョンにおける従量制の課金方式を意味する単なる記述的記載とはいえないものである。

(4)そもそも、「PPV」とは、ペイ(pay)、パー(per)及びビュー(view)の各語の頭文字から造られたものであるが、この「PPV」から直ちに「pay per view」を認識するのが一般的であるとは考えられない。

また、仮に「PPV」から「pay per view」を認識できるとしても、「ペイ(pay)」の語は、「支払う、見合う」等あらゆるものの対価として支払いをすること或いは報いがあることの意味を有するものとして、使用、認識されているものであって、直ちに有料放送の受信料の支払いを意味するものとして認識されていたとは思われない。

次に、「パー(per)」は、「~によって、~ごとに」等を意味する語であるが、日本であまり一般的に使用、認識されている語とはいえず、また、「ビュー(view)」も「眺めること、視界、景色、展望、風景、観察」等多義を有する語として使用されているものであるから、そのそれぞれの言葉は自他商品(役務)識別力の弱い語の組み合わせである。

そして、このような場合には、自他商品(役務)識別力の強い語を弱い語が修飾する場合と異なって、これらは一体として認識されるのが自然である(と第2号証を参照)。

したがって、本件商標は、「PPV」という一体不可分のものであって、「ピイピイブイ」の称呼のみを生じ、何らの観念も生じない一種の造語よりなるものといわざるを得ない。

2.以上を前堤にして、請求人から提出された証拠方法を検討する。

(1)甲第3号証は、発行日が1996年(平成8年)1月1日とされていることからも明らかなとおり、本件商標の登録査定日(平成7年1月27日)よりも後のものであるので、そもそも証拠として失当である。

(2)甲第4号証及び甲第5号証は、放送事業の専門家間の研究会に用いられた報告書であるが、本件商標よりも語源がわかりやすい「ペイ・パー・ビュー」についてわざわざ用語集等によりかなり詳細な定義づけをして用いられている。

したがって、本件商標はもとより、「ペイ・パー・ビュー」という用語ですら、まだ、その当時専門家の間でもあまり使用、認識されていなかったことがわかる。

また、両報告書とも、その頒布部数、頒布の範囲及びその期間については全く不明であり、両報告書の存在によって、本件商標が一般的に使用、認識されていたことを窺わせるということはできない。

(3)甲第6号証及び甲第7号証は、共に海外の専門雑誌であり、本件商標が日本において当該役務の方法を表すものとして一般的に使用、認識されていたか否かを判断する証拠とはならない。

(4)甲第8号証は、「PPV」についてわざわざ「視聴する度に料金を支払う方式」との注記を付している。

したがって、この当時はむしろ「PPV」が一般需要者にとってなじみがない用語であったことを示している。

(5)甲第23号証、甲第24号証、甲第26号証、甲第27号証及び甲第29号証も「日経ビジネス」や「日経コンビューター」等というように直接購読を原則とし、一般の書店ではあまり扱われていないような特定の読者層をターゲットにした雑誌の記事であり、一般需要者にとって「PPV」がなじみのある用語であったことまで立証していない。

(6)甲第25号証及び甲第228号証は、本件商標の査定日より後のものであり、請求人の主張の証拠とはならない。むしろ、例えば、甲第28号証では、わざわざ「番組を1回視聴するごとに料金を支払うペイ・パー・ビュー(PPV)方式」というように「PPV」の意味を説明して使用している。

したがって、本件商標の登録査定日以後でも、「PPV」がなじみのないことを示している。

(7)甲第30号証~甲第44号証は、本件商標の登録査定日よりも後のものであり、本件商標がその登録査定日においてどの程度一般的に使用、認識されていたかという判断をするための証拠としては妥当でない。

また、その多くでは、「PPV」の意味を説明しながら、その用語を用いており、むしろ一般需要者にとって必ずしもなじみがないことを示している。

(8)甲第45号証、甲第47号証、甲第49号証~甲第55号証、甲第60号証、甲第62号証、甲第63号証及び甲第65号証~甲第70号証は、いずれも『日経産業新聞』の記事であり、さらに甲第46号証、甲第58号証及び甲第59号証は『日本経済新聞』の記事である。

したがって、新聞記事の日付は違っても同一の記者あるいは同一の部署等によって書かれた可能性が高いばかりでなく、各新聞のすべてあるいはほとんどが同一の記者あるいは部署により書かれた可能性もある。

してみれば、かかる新聞の記事によって、本件商標が一般的に使用、認識されていたと判断することはできない。

(9)以上のとおり、請求人の提出に係る甲各号証からは、本件商標が、その登録査定時において当該役務の提供の方法として普通に使用されていると認めることはできない。

Ⅲ.当審の判断

請求人の提出に係る甲各号証において、本件商標の登録査定日(平成7年1月27日)以前に発行され、かつ、「PPV」の文字が掲載されている甲各号証についてみるに、

甲第5号証は、『衛星有料放送の実現に向けて』という標題の報告書の写し(衛星有料放送研究会、昭和63年2月発行)であるところ、その付属資料とされている111頁には、「PPV」の文字が、「料金設定方式(課金方式)の一つ」として示されており、同118頁には、「PPV」の文字が「(2)磁気カードを用いたペイパービュー方式」という項目中で、『ペイパービュー』の文字と共に、或いは『PPV』の文字のみが単独で使用されており、

甲第8号証~甲第22号証は、雑誌『NIKKEI ENTE RTAINMENT』(平成2年2月7日発行日のものから平成4年11月4日発行日のもの)の写しと認められるところ、甲第8号証には「ペイ・パー・ビュー(PPV・視聴する度に料金を支払う方式)」と、甲第12号証及び甲第16号証には「PPV(ペイ・パー・ビュー=視聴毎課金制度)」と記載されており、かつ、甲9号証~甲第11号証、甲第13号証~甲第15号証、甲第17号証~甲第22号証においては、「PPV」の文字が、上記のような説明なしに使用されており、

甲第26号証は、雑誌『日経ビジネス』(平成6年1月3日発行)の写しと認められるところ、その54頁には「…、番組を見るごとに料金を加算するペイ・パー・ビュー(PPV)…」との記載があり、

甲第29号証は、雑誌『日経パソコン』(平成5年10月11日発行)の写しと認められるところ、その162頁には、「…。CATVでは現在、ペイ・パー・ビュー(PPV=視聴番組ごとに課金)のサービスとして、…」との記載があり、

甲第49号証、甲第53号証、甲第54号証、甲第60号証、甲第63号証、甲第65号証~甲第67号証、甲第69号証及び甲第70号証は、『日経産業新聞』(平成2年9月20日発行のものから平成6年4月10日発行のもの)の各写しと認められるところ、

甲第49号証には「加入者が視聴した全だけ集金するペイ・パー・ビュー(PPV)」との記載があり、

甲第53号証には「ペイ・パー・ビュー(PPV、一覧払いの有料番組)」との記載があり、

甲第54号証には「ペイ・パー・ビュー(PPV)と呼ばれる一回見るごとに料金がかかる番組だ。」との記載があり、

甲第60号証には「PPVは有料放送の一種で、月単位ではなく見た番組の種類や時間に応じて料金を取る仕組み。」との記載があり、

甲第63号証には「見たい番組だけを有料で視聴するPPVが、…」との記載があり、

甲第65号証には「PPVは視聴者の家庭から電話回線を通じて自動的にどの番組を見たかなどの視聴情報を集める仕組み。」との記載があり、

甲第66号証には「PPVは映画を一本見るごとに視聴料を取られる放送。」との記載があり、

甲第67号証には「視聴者が見たい番組だけの受信を申し込み、料金を払う『ペイ・パー・ビュー(PPV)』」との記載があり、

甲第69号証には「見る分だけ支払う『ペイ・パー・ビュー(PPV)』」との記載があり、

甲第70号証には「ケーブルテレビ(CATV)向けペイ・パー・ビュー番組(PPV=一覧払いの有料番組)」との記載があることが認められる。

甲第58号証、甲第59号証及び甲第64号証は、『日本経済新聞』(平成4年3月15日、同年3月30日及び同4年11月12日発行)の各写しと認められるところ、

甲第58号証には「PPVは視聴者が見たい番組ごとに料金を支払う。」との記載があり、

甲第59号証には「ケーブル・テレビの加入者が、さらに一回ごと、特別料金を払って見るペイ・パー・ビュー(PPV)というシステムがある。」との記載があり、

甲第64号証には「視聴者が番組を見ただけ料金を払うペイ・パー・ビュー(PPV)事業を拡大する。」との記載があることが認められる。

甲第61号証は、『日刊工業新聞』(平成4年5月25日発行)の写しと認められるところ、これには、「デジタルTVはPPV中心」「デジタルテレビ放送の内容は、映画のペイ・パー・ビュー(PPV=映画を一回見たらいくらという値段をとる)である。」との記載があることが認められる。

してみると、上記三つの雑誌(『NIKKEI ENTERT AINMENT』、『日経ビジネス』、『日経パソコン』)が平成2年2月7日~平成6年1月10日の間および上記三つの新聞(『日経産業新聞』、『日本経済新聞』、『日刊工業新聞』)が平成2年9月20日~平成6年4月10日の間に発行されていることから、有線テレビジョン放送、テレビジョン放送の提供者の間はもとより、少なくともこれらの雑誌及び新間の購読者間においても、「PPV」の文字が、本件商標の登録査定時(平成7年1月27日)において、「有料テレビジョン放送・有料有線テレビジョン放送の課金方式名の略称」として認識されていたことが窺える。

なお、被請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かについては、一般需要者を基準にして判断すべきである旨主張するが、出願・登録に係る商標が、商標法第3条第1項第3号に該当するか否かについての判断においては、一般需要者のみを基準とするものではなく、その指定商品(又は役務)の取引者を基準にしてなされるべきものであるから、この点に立ってさらに証拠の検討をすることとする。

次に職権をもって調査したところ、『情報・知識イミダス1992年版』(株式会社集英社、平成4年1月1日発行)の1392頁には「PPV[pay-per-view]ペイパービュー.視聴番組の本数などによって一定の料金を支払う、有料テレビの一方式.」と、同197頁には「視聴した番組単位で課金するペイパービュー(PPV)サービスが可能となる」との記載があり、

『情報・知識イミダス1995年版』(株式会社集英社、平成7年1月1日発行)の1376頁には「ペイパービュー[pay-per-view]〈1〉視聴番組の本数や時間によって料金を決める有料テレビ方式.PPVとも.〈2〉ビデオソフト発売前の新作映画を有料で有線テレビを通して送信する方式.」と、同189頁には「視聴した番組単位で課金するペイパービュー(PPV)サービスが可能となる。」との記載があり、

『現代用語の基礎知識1995年版』(自由国民社、平成7年1月1日発行)の1327頁には「PPV(pay per view)有料テレビの課金方式。ある番組を見るたびに一定の料金を支払う新しい形式のケーブルテレビ。」と、同649頁には「日本初の本格的ペイ・パー・ビュー(視聴ごとに料金を支払う)方式を、日本ヘラルド映画は通信衛星を使って、1990(平成2)年7月から自社配給洋画の配信を始めた。…平成5年3月末現在、施設数149、加入者数107万世帯となった。…」との記載があり、

『例文で読むカタカナ語の辞典 第二版第1刷』(株式会社小学館、平成6年4月1日発行)の540頁には「ペイパービュー方式(英pay per view systemの訳語)〈1〉有料テレビ方式で、視聴番組の本数や時間で料金を支払うシステム。PPVと略す。〈2〉ビデオソフトとして発売以前の新作映画を有線テレビで有料放映すること。」との記載があり、

『最新英語情報辞典 第2版第3刷』(株式会社小学館、平成元年6月30日発行)の928頁のPPVの項には「《略》pay per viewペイ=パー=ビユー……ペイ=テレビ(pay-TV)におけるサービスの課金方式の一つ;視聴者は、視聴番組ごと、ないし単位視聴時間ごとに料金を支払う;従量制の課金方式といえる。」との記載があり、同884頁の「pay per view」の項目には、「有料テレビの加入者が視聴した番組の本数に応じて料金を支払う方式.」との記載があり、

日本工業新聞社発行の『日本工業新聞』の平成4年11月9日版には「日本電信電話(NTT)本社でペイパービュー(PPV)の実証実験を行う。…1993年度中にもPPVサービスが開始できる体制を整える。…有料衛星放送は、すでに月額固定料金制で行われているが、PPVによって見たい番組だけ、あるいは見たい時間だけ受信し、視聴料を払う方式が導入されれば、衛星放送視聴者の裾野を拡大し、衛星放送事業者の経営にも寄与すると期待される。」と、

同紙の平成4年12月15日版には「日本通信衛星(JCSAT)のトランスポンダー(中継器)でコアテック方式のスクランブルを採用するグループ…このグループはライバルに一歩先んじた魅力づくりに取り組んでいる。まず、日本衛星放送(JSB)とのデコーダー相乗り。次いで、見た時間だけの料金を払う割安なPPV(ペイパービュー)方式導入でのリードである。…PPV方式では、デコーダーの心臓部にあたるMPU(マイクロプロセッサー)の開発段階で『PPVに必要になる回路を組み込み済みのコアテックは、同じ回路を内蔵していないスカイポートに大きく水をあけている』と余裕を語る関係者もいる。」と、

同紙の平成5年6月21日版には「PPV(ペイパービュー)と呼ばれ、一回見るごとに料金がかかる映画番組サービスの成功が、ビデオ・オン・デマンドへの地ならしとなっている。」と、

同紙の平成6年5月19日版には「視聴者が見た番組や料金を管理できる『ペイ・パー・ビュー(PPV)』機能などが特徴だ。」と、

同紙の平成6年7月4日版には「タイムワーナー・エンタテメント(TWE)も昨年(平成5年)ニューヨークのクインーズで150チャンネルのCATVサービスに踏み切り、うち67チャンネルでペイパービュー(PPV)を実施した。」と記載されていることが認められる。

そうすると、少なくともこれらを通読している者の間においては「ペイパービュー(pay per view)」は、「有料テレビジョン放送・有料有線テレビジョン放送の課金方式名」として認識され、「PPV」は上記「ペイパービュー(pay per view)」の略称として認識されていることが窺える。

してみれば、本件商標が、「PPV」の文字を普通に用いられる方法で表示するものであることと、上記認定事実を総合すると、本件商標の登録査定時(平成7年1月27日)において、本件商標をその指定役務中「有線テレビジョン放送、テレビジョン放送」に使用する場合、本件商標に接する取引者、需要者は、本件商標が「視聴者が見たい番組ごとに料金を支払う方式を採っている」役務を表示するものであること、すなわち「役務の提供に対する対価の徴収方法」を表示したものであると把握、認識するに止まるとみるのが相当であり、本件商標は、当該役務について自他役務の識別標識としての機能を果たさないものといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、その指定役務中の「有線テレビジョン放送、テレビジョン放送」について、商標法第3条第1項第3号に違反してなされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とすべきである。

しかしながら、前記したように「PPV」の文字は、テレビジョン放送を受信したこと(見る=view)に対する料金の徴収方法を意味するものであって、「PPV」の文字が、本件商標の他の指定役務について同様の意味の語として使用されている事実を発見しないから、本件商標は、その指定役務中「有線テレビジョン放送、テレビジョン放送」以外の役務について、その登録を無効とすべき理由はない。

よって、結論のとおり審決する。

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